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遺体修復士の備忘録

2025.10.8 医療の現場でのコラム

看取りの先にある“空白”──エンゼルケアが抜け落ちた看護教育のいま

投稿日:2025年10月
カテゴリ:看取り・終末期ケア教育
著者:エンゼル佐藤(終焉プロデュース)


■ 座学だけのエンゼルケア

現在、筆者が入院している国際医療福祉大学病院の看護学課でも、 「基礎看護学」でエンゼルケアに関する講義は行われています。 しかしその内容はごく簡素で、実技演習(死後処置の体験)は実施されていません。

看護学生は教科書上で死後ケアの手順や倫理を学びますが、 実際に「亡くなった人の身体に触れる」という体験的学びはほとんどありません。 この“机上のケア”にとどまる教育の現実は、 全国的にも決して珍しくないのです。


■ 教員が語った「終末期ケアの先にある課題」

「在宅や施設での看取りが、これからの多死社会での最大の課題です。
終末期ケアや緩和ケアの“先”にある現実こそ、見つめなければなりません。」

担当教員のこの言葉は、現代の看護教育の核心を突いています。
確かに終末期ケア教育では「臨死期」──つまり亡くなる直前までの看護を学びます。 しかし、死後ケア(エンゼルケア)はその延長線上にありながら、 カリキュラム上は切り離されているのが現実です。

この“線引き”が現場の混乱を生み、 死後処置を学ばないまま臨床で初めて経験する若い看護師を増やしています。 その心理的負担や倫理的葛藤は、見過ごせない課題です。


■ 最新エビデンスが示す教育の現状

  • 伊藤ほか(2025)/J-STAGE掲載論文
    臨死期ケア教育の現状として「学習の機会がない教育機関は24.8%」、 さらに「演習(体験型学習)を実施しているのは5〜10%程度」と報告。 多くの学生が“体験のないまま卒業”している実態を示しています。
  • 田村ほか(2021)/私立看護大学40校の実態調査
    終末期看護を独立科目として扱う大学は60%にとどまり、 死後処置までを必修にしている学校はさらに少数。
  • 並川ほか(2010)/GINMU報告
    看護学生の多くが「死後処置を学校でではなく臨床現場で学んだ」と回答。 教育現場での死後ケア指導が欠けていることを示しています。

これらのデータを重ねると、 全国的にもエンゼルケア教育が体系化されていないことが明らかです。


■ 介護と看護の狭間で

介護福祉士には医療行為に制限があり、 「看取り」や「死後処置」を担うことはできません。
だからこそ、看護師が果たす役割は今後ますます重要になります。

在宅や施設で亡くなる人が増える多死社会では、 「最期を看取る」だけでなく、 「亡くなった人を整え、家族に引き渡す」までを含む包括的ケアが求められます。

にもかかわらず、教育現場では“死の直後”の学びが抜け落ちている。 ここに、日本の看護教育が抱える構造的課題が存在します。


■ 終焉を支える専門性へ

エンゼルケアは単なる処置ではありません。
それは「人の最期を敬う行為」であり、 看護師の職業倫理と人間性の集約されたケアです。

多死社会を迎えた今こそ、 終末期教育に「死後のケア」を正式に組み込むべき時期に来ています。
亡くなった人を整え、見送るその一連の行為こそ、 「終焉を支える看護」の真の姿ではないでしょうか。


■ まとめ

  • 現在、看護教育ではエンゼルケア(死後処置)は座学中心で、演習のある学校はわずか5〜10%。
  • 教育現場と臨床現場の間に“死の先の空白”が生まれている。
  • 多死社会において、終末期ケアと死後ケアの統合教育が急務である。

🕊️ 関連タグ

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