2022.01.19 コラム
火葬された故人の金歯の行方は?そして、誰の物?
こんにちは、遺体感染管理士のエンゼル佐藤です。
さて、私は過去に火葬場の管理の仕事をしていた事がありました。
もう、20年以上も昔のお話です。
火葬した後に出る「灰」から金が採れる話は結構根強く聞かれますね。
最近も雑談で質問されましたよ(笑)
で、答えは「イエス!」
遺灰の中の金の行方
私が管理していた火葬場で火葬されて出る遺灰は、とても生真面目な火葬師さんによって、出来るだけ骨壺に収めていました。
収骨には、全骨収集と部分収骨の二つがあって、西日本では部分収骨が多いと聞きました。
火葬師さんは遺灰は全てご遺族の物だと言っていましたね。
この記事のソースは関東での火葬場での収骨のお話になりますので、部分骨収集の多い西日本では違う事もある事をご了承くださいね。
まあ、これが雑な火葬場だと適当に拾って、後は一斗缶にポイする所もあるとは聞いていましたけど。
自分が管理していた火葬場ではそれこそ、収骨の後に塵取りで綺麗に台座を履き集めて本当に綺麗にしていました。
それでも残った遺灰は産業廃棄物扱いになるので、専門の処理業者に引き取って貰っていました。
収骨前に、実は棺の釘とかの金属を強力な電磁石で拾って、不燃物として処理します。
因みに、生前に怪我の治療などで体内にあった医療用の金属などは、ご遺族の要望をお聞きして、骨壺に入れるか否かを聞いておりました。
ご存じの方も多いでしょうが、一応言いますと、金は磁石には付きません。
結構、棺に何やら入っていて祭壇のメロンとかを入れてしまうケースもあったりと、この時点で燃えそうな物と不燃物を取り除いて分別します。
若干は集塵機で遺灰を吸ってしまいますが、極力気を付けてはいましたね。
集めた残灰は、精製されてそこから混入した金属が微量に収集できるのだそうです。
まあ、気の遠くなる量でしょうけどそれでも金って金鉱山さえ1トンから採れる量は
おおよそ3~5グラム程度で優秀な金鉱山でも10グラムにはならないのだとか。
まだ、遺灰からの精製の方が効率が良いのでしょうね。
しかし、近年では金歯にする方は激減したと思いますけど。
歯に金を使う様になったのは、二つの理由があります。
ひとつは、金は加工しやすくまた柔らかいので、本来の歯と同じように摩耗するのが自然で良いとされていたのだとか。
安定した金属なので、アレルギーも出にくい為に歯の被せ物としては最適なのだそうです。
もう一つが、所謂ステータスな意味で金歯にするケースですね。
金は富の象徴で、虫歯が無いのにわざわざ財がある事を強調する意味で金歯を入れるのが流行った時代もありました。
明治・大正生まれの女性がわざわざ嫁に行くのに、親が前歯に金を入れて嫁がせた話もリアルに聞いた事もあります。
しかし、金歯とは審美性に乏しくやがて目立つ部分に金歯を入れる事も減ってきました。
それでも、入れ歯や奥歯に金を使うケースは令和の現代にもまだあるそうです。
それに、金歯でなくとも今でも使われているパラジウム、俗に言う「銀歯」正式名称 歯科鋳造用パラジウム合金には、金12%、パラジウム20%(JIS規格)、銀50%前後、銅20%前後、その他の合金が含まれているそうですよ。
パラジウムも貴金属としての取引対象となるので、意外と馬鹿にはなりませんね。
その、パラジウムの入れ歯を溶かしてインゴットにする実験をやっている面白い動画の制作をしている
「やさぐれメタル」さんの銀歯のインゴット編のリンクを貼っておきますね。
興味のある方はどうぞ!
https://youtu.be/u8PBQbbr49U?si=K-epOXWI-KHzaZX1
結婚指輪も昭和時代は金が流行りで、着けたまま火葬するケースもありましたね。
人は大抵、突然に亡くなる事が多いので、指輪を外す余裕なんか無くてそのまま火葬になるケースは多いかと。
金の指輪を家族に残したい方は、出来れば高齢になった時点で外しておくことを推奨します。
救急で入院治療の内容によっては、指が浮腫んでパンパンになって外せないケースも多々ありますので。
ずーっと、着けたままで外せなくなった指輪はお近くの消防署にご相談ください。
指輪を外す機器を所有していますので。
ちなみに金の融点は、1,064度で沸点は2,857度になります。
通常の火葬の平均温度は800~1200度で、ダイオキシン発生抑制の為に800度以下にはしないのです。
この温度も、火葬するご遺体の状況で調整します。
火葬炉の温度はマックスで3,000度まで上げられるそうです。
例え揮発しなくとも、溶けてしまって金がどれなのか判別できる状態では無いのは確かです。
火葬炉の仕組み
ここで、火葬炉の仕組みについてちょっとだけ書いておきますね。
2023年時点では、日本の火葬炉のほとんどが、台車式の火葬炉を採用しています。
ダイオキシン規制法(平成11年7月16日 公布)が執行される以前には、ロストル式という火葬炉があり、高い煙突から黙々と煙がでていました。
ロストル式火葬炉とは実にシンプルで、金属棒を張り巡らせた上に棺を乗せて焼く方法です。
下に受け皿があり、そこに遺骨が落ちる仕組みです。
しかし、現在はダイオキシン規制法で煙を出す事自体が法律で禁止されている為に、この方式は使えなくなりました。
昔は煙突から登る煙が、故人が天に上るイメージを持ったものですけどね。
今の火葬場の建屋には煙突がないので、自分が管理していた頃は「道の駅」に間違える人が続出してました。
話を戻しますね、では産業廃棄物として回収処理業者に引き取られた後はどうなるのかと言いますと、そこから精製できる金属を除いた後の残灰は、最終処分場に運ばれそこに埋められる事になります。
しかし、そこは一般廃棄物の残灰とは区別されて埋めています。
産業廃棄物ではありますが、きちんと共同の納骨場としての扱いですね。
年に一度、ご供養の為に僧侶に拝んで頂き一年を括ります。
管理事務所にはいついっか、供養祭を行ったとちゃんと写真付きの報告書と、毎月、前月の回収した残灰量と成分の分析表が送られてきます。
分析表も見てましたが、金の含有量って本当に少なかったですよ。
これが、一連の流れでしたね。
さて、遺体に付いた状態の金歯は物理的に外すことが困難なので、火葬されると上記の流れで処理されます。
では、入れ歯などの場合はどうでしょう?
金の買い取り業者さんは、入れ歯の金でも買い取りしてくれるそうです。
入れ歯であっても金の価値は変わらないそうですよ。
では、それは誰の物なのか?
一応、遺産になりますので金歯として分けるのか、それとも売買をして金額を遺産の分配等分に分けるのかは、遺族間で決める事になりますね。
余談になりますが、2022年9月8日に96歳で亡くなったイギリスのエリザベス女王が最後に身に着けていた宝飾は、フィリップ殿下との結婚指輪と、パールのイヤリングのみだったとか。
実にシンプルですよね。
諸行無常とはすべてが無になる意味で、イギリス王室には有名な財宝がありますが、それは王位を継承して、在位期間のみの所有で個人が所有する事はありません。
あれだけの地位にあった方でも、最後はそんなシンプルなお話です。
因みに、エリザベス女王は土葬です。
ご参考になったでしょうか?