2019.08.6 グリーフ関連のコラム
湯灌サービス、本当に必要ですか?——遺体感染管理士の立場から考える「湯灌」のリスクと現実——

こんにちは。
遺体修復・遺体感染管理士のエンゼル佐藤です。
私は医療・看護・感染管理・法医学・造形・火葬運営など、多角的な視点から「遺体修復士」の在り方を探求しています。
本日は、近年注目されている「湯灌サービス」について、科学的かつ法医学的な視点から考えてみましょう。
湯灌とは何か?
「湯灌(ゆかん)」とは、納棺前にご遺体の全身を清拭・洗浄する儀式を指します。
地域によっては「にっかん」と呼ばれることもありますが、本質的には同じ行為です。
近年では、簡易バスタブや設備を持ち込んで、ぬるま湯でご遺体を洗う業者も存在します。
闘病生活で長らく入浴できなかった方に「最後にお風呂に入れてあげたい」と願うご遺族の想いには、私も心から共感します。
しかし、プロフェッショナルとしての立場から申し上げると、湯灌には慎重な判断が求められます。
法医学的・科学的観点から見た「湯灌」のリスク
■ 湿度と温度が招く腐敗の加速
ご遺体は生体とは異なり、自己修復能力が失われた非常にデリケートな状態です。
体温が失われた後の組織は、温度・湿度によって急速に変化しやすくなります。
例えるなら、「新鮮な魚」をぬるま湯で洗うことを想像してみてください。
洗い終わった後、どうなるか…臭いが出たり、身が緩んだり、腐敗が進行するのは誰しもご存じのはずです。
ご遺体も同じく、低温環境での管理が腐敗抑制の基本です。
それにも関わらず、40℃前後のぬるま湯に数十分浸す行為が、どれほど生物学的・病理学的に不自然かは言うまでもありません。
■ 湯灌後に生じうるトラブル
実際に現場では、次のような事例を多く見聞きします:
- 顔面や四肢に紫斑が浮き出る(血液の再移動と温度変化による影響)
- 皮膚が剥離してしまう(死後の水分バランスが壊れるため)
- 異臭が発生する(温度と湿度により細菌の活動が再活性化)
- 棺に納めた後、体液の漏出が起こる(浸水による膨張や腐敗の加速)
こうしたトラブルによって、追加処置や再納棺の費用が発生するケースも少なくありません。
■ 感染リスクの存在
ご遺体からの感染リスクは、現代医学でも明確に確認されている事実です。
特に肝炎ウイルスや結核菌、MRSAなど、死後でも一定の感染性を保つ病原体が存在します。
素手での洗浄を「尊厳」と呼ぶ業者も一部存在しますが、感染症対策を軽視することは、ご遺族・関係者・施術者の健康と安全を著しく損なう行為です。
湯灌は「悪」なのか?
私は決して「湯灌そのものを完全に否定」しているわけではありません。
ご遺族の「きれいにしてあげたい」という想いが供養になることもあります。
心のケアとしての湯灌に、心理的な価値を見出す方もいらっしゃるでしょう。
ただし、その“きれいになった”という感覚は、ご遺族の主観であることを知っておいてください。
そして、実際には“きれいに見える”ことと“ご遺体に優しい”ことは、必ずしも一致しないのです。
専門家としての結論
湯灌は、「美しい別れ」を演出するひとつの手段であると同時に、
法医学的・科学的な視点ではリスクの高い行為であることもまた事実です。
したがって、
- 湯灌を希望される場合は、そのメリットとリスクを正しく理解した上で判断すること
- 実施する際は、感染管理や冷却管理に熟知した専門スタッフのもとで行うこと
を強くおすすめします。
最後に
死後の身体は、尊厳と同時に「管理」が必要な状態です。
想いだけでは守れないことがある。だからこそ、知識と判断力が必要なのです。
「してよかった」だけでなく、「しても大丈夫だった」と言える別れを目指しましょう。
遺体感染管理士
エンゼル佐藤